墨入りタクシーゆる~く営業中

とある地方都市のタクシードライバーの日々の雑感

マイ・スタイル / アワ・スタイル

確認してみたら1年4ヶ月もこのblog放置してたんだな、そんなに時間が経っていた感覚は全然無いんだけど。

本当にさしたる変化も無い、淡々とした毎日だった。仕事の日は朝6時に起きて朝飯食って髭剃ってゴミの日にはゴミを出して、クルマで3分の営業所に出勤する。で、6時半には点呼を終え車中の人になっている。仕事の内容、というかこなし方は完全に確立されたルーティンで、出庫してから11時頃までは営業所の付近で、地元密着型のウチの会社が持つ注文をもらって走る。その後、街に出て、デパートや大きな病院の待機スペースで付け待ち、その合間に流し。デパートの催事やお年寄りの年金受給日、ホールでの大きなコンサートのスケジュール等はさりげなくチェック。その程度の工夫はする。

その後また車庫方面に戻り、待機ボタンを押して注文を待ちながら遅めの昼食を食う。17時位まではどこも動かない時間帯なので、体調によっては仮眠を取ったり、TwitterのTLを流し読みしたり持ち歩いている文庫本を読んだり。仮眠のつもりがぐっすり眠ってて、注文に配車された事を知らせるGPSシステムのチャイム音(結構大きい音なので目覚まし時計代わりになる)に起こされ、ったく、気持ち良く眠ってたのに、と心の中で悪態をつきながらシフトをDレンジに入れて注文先に向かう。

夕方からは、出張先のオフィスから駅に向かう方や夜の街に飲みに出る方、ご出勤のスナックのママさん達からの注文が多く、そこそこ動く。20時過ぎまで注文を捌いた後、ガススタンドでガスを詰め、それから最終の新幹線が着く時間まで駅のタクシープールで付け待ち。待ち時間はやはりスマホを眺めたり本を読んだり。で、その後は1、2本、大学の付属病院に夜勤に出勤する看護師さん達を運んで1日は終わる。平日は夜の盛り場は僕は流さなくなったなあ、消費税が上がってから地方都市の夜の街は閑散としている。週末はそれなりに動くんだけど。

そんな完璧なルーティンワーク。クルマの運転は好きだし、空き時間に読書も出来たり、対人関係のストレスも全くない仕事なので言うほど飽きたりはしない。というか、むしろますますこの仕事が気に入ってきた感じすらする。気楽にやるには悪い仕事じゃないと思う。無為に人生がすり減っていく様な漠然とした恐怖を感じる時はたまにあるけど。



仕事の進め方もだけど、仕事をするスタイルもぼちぼち自分のスタイルを確立しつつある様に思う。運転と車中の会話はキレ良くスムーズに、乗り降りの際の挨拶は元気良くサバサバと。お年寄りには優しく、礼儀を知らない若者には厳しく。たまにいる高圧的な態度のお客さんに当たっても決して卑屈にならず毅然とした応対を。丁寧だけど遜らず、相変わらず白手袋だけは絶対に着けず。そんなスタイル。そんな感じでやっていれば嫌な思いをする事も殆ど無いし苦情も来ないという事が分かってきたんだろう。



…地方都市のタクシーというのは、そんなに稼げる仕事ではない。何処かでタクシードライバーの県別の年収の統計を見た事があるけど、我が県は200万少々という、ちょっと背筋が寒くなる様な数字だった。東京の約半分、流石に僕は若いしもう少し稼いでいるけど、東京のドライバーの平均年収には届かない。これでも一旦業務に就けば帰る頃にはへとへとになる位気も身体も使っているんだけど。給料とは我慢料なんだ、という言葉を聞いた事があるけど、そういう意味じゃ確かに僕らあまり我慢してないかも知れない。でも、それなりに歯を食いしばって働いているんだけど。



いくら頑張ったってどうしようもない、越えられない、目に見えない壁みたいなものが僕らの前に立ち塞がっているような感覚は常にある。それがどういうものなのか、その正体が一体何なのか、5年半業務に当たってもはっきりとは分からない。 …あるいは敢えて深く考えないようにしているのかも知れない、それがこのblogの更新を疎かにしていた原因でもあるのか、事実この文章を書いている筆もさっぱり進まない。いつかははっきりさせなきゃならないんだろうし、はっきりさせるつもりではいるけれども。いちドライバーとして生涯を全うする決意はあるのだから。



暑ければ暑い事に文句を言い、寒ければ寒い事に文句を言う。仕事が暇ならやってられねぇな、と愚痴り、忙しかったら忙しかったで疲れるなぁ、と小言を撒ける。でもその言葉には大した感情はこもっていないし意味もない。そしてそんな会話がドライバー仲間と交わす言葉の大部分だ。お気楽な人はそこそこにいるけれど、夢と希望に満ちた心持ちでこの仕事に向き合っている人は殆ど見た事がない。どこかみんな何かを諦めている。だからそこここで交わされる愚痴にもならない愚痴も何処か他人事のように聞こえる。



もしかすると、この仕事は何かを諦める所から始めるものなのかも知れない。それが僕らのスタイルなんだろう。そんな気がする。 それでも、僕はこの仕事が好きだけどね。



この曲の熱烈(かどうかは知らないけど)なファンが作ったと思しき自主制作PV。

作者は僕より年上(しかもかなり)の様に思えるけど、曲はもちろん、映像も素晴らしいです。

墨入り、生きのびてます。

久しぶりの更新です。

別に特別な事があった訳でもなく、毎日いつも通りに仕事してたんだけど、何故かこのblogに向かうモチベーションが上がらず、気付けば1年以上放置してしまいました。仕切り直してまた再びゆる〜く書いていこうかなあと思っています。
 
 
放置していた間特に変わった事があった訳ではなく、日々淡々と仕事をこなしていました。変わった事と言ったら、会社から預けられているクルマがプリウスからコンフォートに戻ったって事位かな、それ以外は特に事故も苦情も無く本当に唯々淡々と業務に当たる日々でした。
 
 
書きたい事は色々あったんだよね、年末年始の超繁忙期も無事に乗り切ったので(年末らしい風変わりなお客さんも多くてなかなか楽しい年末でした)、ぼちぼち復活です。
 
 
この仕事も気付けば始めてもう5年半、新米とも言えない立場になってきました。まあ特にそれによって新たな責任を負ったりする訳では全然ないんだけど、この業界や仕事に関しては色んなものは以前にも増して見えて来たかな。そういう意味ではホント書きたい事はたくさんあります。そんな事を、少しづつ書いていこうと思います。
 
 
という訳で本日は復帰のご挨拶まで。
 
 
 
 
 
 
せいぜい生きのびてくれ。ハルは相変わらず最高だ。

タクシードライバーと飯

勤務形態にもよるのだろうが、僕たちタクシードライバーの1日は長い。ウチの会社の場合、正規のシフト上の拘束時間は朝の8時から明けての夜中の0時までだ。しかもそれはあくまでシフト上の拘束時間であって、それだけじゃなかなか稼げないので、朝も7時にはクルマに乗っているし、週末等夜の街が賑わっている日は午前3時頃まで業務している事なんてザラだ。朝飯は家で食べてくるとしても、昼飯晩飯は勤務中に食べなければならない事になる。

昔の古き良き時代、まだ日本の景気が良かった頃は、タクシードライバーが集う定食屋が街のそこここにあった。と言うか、僕の叔父が正にそういう定食屋を経営していたので、幼い頃から昼飯時に集うタクシードライバーを見て育った。そこに昼過ぎに遊びにいくと、店の前にはいつもタクシーが5~6台は停まっていた。時代ものんびりしたもので、ドライバーのおじさん達は昼飯を食べ終わった後もすぐには業務に戻らず、クルマを停めて呑気に世間話に興じていた記憶がある。GPSなんて無かった頃だったし、時代はバブル景気が始まった頃だったかなあ、それでもそこそこ稼げたんだろうね、まあいい時代でした。

その定食屋の奥にはカウンターから仕切られた小上がりがあり、忙しい時間帯などは「ちょっとそっちに行ってなさい」等とカウンターからそちらに追いやられたりした。するとそこには、一服どころか完全に仕事に戻るのを放棄したダメなドライバーが寝転がってエロ本を読んでいたりした。テーブル代わりのポーカーゲーム機の上には食べ終わった定食の膳と、何故か瓶ビール。その頃は今じゃ考えられない程酒気帯び運転に対する世間の認識って甘かったんだけど、それでも幼心に、うわぁ、このおじさん柄悪っ!と思ったのを覚えている。そのドライバーの柄の悪さに嫌悪感を覚えた記憶は不思議となくって、むしろ薄暗い小上がりの、そういう少し淫靡な雰囲気を心地いいと感じる子供だったのかも知れない。その当時はまさか自分がタクシードライバーになるなんて想像もしてなかったけど。

時代は変わって21世紀。バブル景気など遥か昔にはじけ飛び、平成の大不況やらリーマンショックやら、最近だと消費増税?こそっと増税された住民税?まあ明るい経済ニュースは聞く事がなくなって久しい。暇な時間にニュースやらツイッターのTLやら眺めていると、資本主義経済ってそのうち破綻すんじゃねえの?なんて疑念すら湧いたりする。この国だけの問題じゃなくね。まあそれは多少大袈裟だとしても、こういう仕事をしていると所得の格差はどんどん広がっているのを実感したりする。都会は景気いい業種は景気いいらしいけどね、斜陽の田舎町ではナントカミクスの恩恵なんて微塵も感じられませんね。むしろ酷くなってる。

タクシー稼業なんて所詮水商売だから、そういう景気の変動の影響をモロに受ける業種な訳でして、田舎のタクシードライバーは皆青息吐息で暮らしている。前回のエントリでも少し書いたけど、9月分の給与明細を見た時は背筋が寒くなった。自分で言うのはアレだけど、これでも一応月の営業収入はドライバー80余名中TOP10から脱落する事は無い程度には上げているんだけどなあ。具体的な数字は書かないけど、我が家の場合奥様がかなりいい条件で仕事出来ているので何とか人様並みの暮らしは出来ているけど、それでも暮らしは楽じゃない。

そんな昨今だから、僕が幼い頃に叔父の定食屋で見た様な牧歌的な風景は完全に消滅した。金銭的にも、時間的にも、そんなランチを取る余裕はタクシードライバーには無くなったのだ。少しでも稼ぐ気があるドライバーは店に入って食事を取ったりしない。時間がもったいないから。僕の場合は、昼食は朝から午後3時頃まで、待機で注文待ち、付け待ち、流しである程度数字を上げた後に、車庫近くで待機しながら持参した弁当を車内で食べる。3時過ぎに食べるのは、その時間帯は動きが止まる、という事もあり、あまり早い時間に食べると夜に腹が減る、というのもあり。で、夜飯は、平日等0時の定時で上がる時は基本食わない。週末に遅くまで残業する時は流石に食わなきゃもたないから食うけど、それでも店に上がって食べたりはしない。コンビニ弁当やドライブスルーのハンバーガー、ごくたまにやっすい牛丼。これも待機や付け待ちしながら車内で。まあファストフードオンリー。食べ物の匂いがこもるのは嫌なので窓は4枚とも全開。雨の日や冬はなかなかに切ない。

周りを見ても大概僕と似たり寄ったりですね。年金貰ってるおじいさんドライバーなんかは車庫の休憩室で食べたりしてるけど、まあ定食屋でのんびり、なんて人は殆どいない。これも多分金銭的な理由でなんだろな。叔父も随分前に店を畳みました。不景気で話にならねえよ、なんてヤケクソ気味に愚痴こぼしてたのを覚えてます。

年末に源泉徴収を貰う度に思うけど、田舎町のタクシードライバーってここまでやってこの年収なんですよね。怒りを通り越して悲しくなる時がある。あ、今回のエントリは愚痴じゃないですよ、地方都市のタクシードライバーの現状を、問題意識と少しの怒りを込めて綴ったレポートです。せめて昼飯くらい少しのんびり食える状況にならないのかな、という希望を込めた。愚痴言うのは好きじゃない。あ、そう言えば今年一月に施行された「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法等 の一部を改正する法律」ってなんだったんだろう。あまりに現状に変化が無さ過ぎて存在忘れてた。気が向いたら思う事書こうかな。

 

 


SLANG - 糞の吹き溜まり (OFFICIAL VIDEO) - YouTube


少しでも気持ちの中に「怒り」という感情がある時にはハードコアって音楽はとてもいい。VokalのKOさん、僕とタメなんだよなあ。尊敬してる人です。