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とある地方都市のタクシードライバーの日々の雑感

墨入りタクシーが推す、車内BGM5選

前のエントリでも書いたとおり、僕がiPodFMトランスミッターで仕事中に音楽を聴くのは暗くなってからだ。昼間のお客さんはお年寄りが多いし、地元のAMラジオが面白いので、地元のキー局の番組が放送している時間帯はAMラジオを流している。なので、僕が選曲した音楽を聴く(はめになる)お客さんの客筋は、駅から乗せた遠出帰りのお客さんかお酒を飲んだ帰りのお客さんだ。それを念頭に置いて読んでもらえれば。

 

  The Rolling Stones / Let it Bleed

 

Let It Bleed

Let It Bleed

 


まずはローリング・ストーンズが1969年に発表した、ロック史上に燦然と輝く名盤。僕なんかがああだこうだ解説する必要なんてないですね。個人的な好みで言うと、'72年発表の「メインストリートのならず者」の方が好きだし実際仕事中もたまに流すんだけど、車内BGMとしてはこっちの方がふさわしいかな。
何がいいって、もう全てが素晴らしい。捨て曲無し、どのタイミングでお客さんが乗ってきても困る事が無い。自分が、たまの飲み会で喋り過ぎた帰りに拾ったタクシーの車内にM2"Love in Vain"なんかが流れていたら最高だよね。"Well, it's so hard to tell, it's hard to tell When all my love's in vain"。伝説のブルースマンロバート・ジョンソンのカヴァーなんだけど、「上手く言えないんだけど…」のくだりがたまらなく良い。この後ストーンズはどんどんバンドの規模が大きくなっていって、ロックミュージックを取り巻く環境も変わっていったのかな、規模の大きなスタジアムロックになってしまったけど、この頃はまだ、最先端のユースカルチャーたる音楽だった。いや、丁度両者の境目なのかな、でも、そんな音楽が放つ、独特のキラキラとした輝きが眩しい位に感じられるアルバムです。

 

 

 The Allman Brothers Band / Brothers and Sisters

 

Brothers and Sisters

Brothers and Sisters

 

これも問答無用の名盤ですな。オールマンはどのアルバムもいいんだけど、やはり車内BGMとしてはこの盤が最強。初期のハードブルースロック全開の頃、デュアンがまだ生きていた頃ね、も凄く聴き応えあるんだけど、デュアン・オールマンのギターってかなり耳に刺さるんですよ、自分でもちょっとギターをいじる立場としては最高の褒め言葉なんだけど、BGMとしては少しうるさいの。演奏のテンション物凄くたっかいし。デュアンと言えば「愛しのレイラ」でのスライドプレイが有名だけど、あの曲のあのギターのイントロも実はデュアンが考えたんだって説もあるらしいですね。この歳になってもクラプトンの良さが分からない僕は、曲としては「愛しのレイラ」は全然好きじゃないですが。
このアルバムは、いい意味でポップなんだな。聴きやすいの。どの位ポップかっていうと、自家用車をドライブ中にこれを流してたら、連れ添って14年にもなるんだけど夫の趣味をまっっっったく理解しない嫁が、これ誰の曲?ふうん、こういうのも聴くんだ、よくわかんないけど、後でアタシのiPhoneに入れといて、って言う位。相当です。そう言えば、仕事中にコレ流してて、お客さんから「素敵な音楽ですね」というお褒めの言葉を2回程頂いたんですが、思い出してみれば二人とも女性でしたね。ジャケットのアートワークも秀逸。

 

 

 White Light White Heat / The Velvet Underground

 

White Light White Heat

White Light White Heat

 

 
人に聴かせる為のBGMって、なんだかよくわかんない音が適している事も多い。あくまでバックグラウンド・ミュージックであるからして、変に歌詞やメロディが耳に残ってしまう音よりは、右から左に流れてしまう音、もしくは雑音のように全く理解不能の音の方がふさわしかったりする。#もしかしたら、だから歌詞が日本語の音楽はBGMに適さないのかも知れない。
で、そういう意味ではコレ、最高の盤です。わけわかんなくて、そして妖しい。僕がこの盤を流すのは絶対に夜、しかも夜の街の混沌がより深い週末だ。チカチカと眩しい街のネオンやクルマのテールランプの河、明滅する信号機、パトカーのパトランプ。そしてそんな灯りによって一層際立つ闇の深さ。そんなシチュエーションにバッチリハマる。去年他界したヴォーカルのルー・リードは生涯ニューヨークという街を愛した。生まれもブルックリンで、生涯の大半をそこで過ごしたという。NYという大都会の中で作られた曲が夜の街の喧騒に合うのは当然かも知れない。
M2"The Gift"やM6"Sister Ray"が流れている時に乗ってきたお客さんは「当たり」だ。車窓を通して眺める、何の変哲もない斜陽の田舎街の眺めが、映画のスクリーンで見るNYの街並みに見える。ある種の優れた音楽は、こういう既視感を聴く人の頭の中に実に見事に描き出す。ルー・リードとヴェルヴェッツがこのアルバムで描いた絵は賑々しくも妖しい夜の街だ。

 

 

  Twelve / Patti Smith

 

Twelve

Twelve

 


「パンクの女王」パティ・スミスが2007年にリリースしたカヴァー曲集。タイトルの通り、ジミ・ヘンドリクスビートルズドアーズニール・ヤングなどのロック・クラシックのカヴァーが12曲収められている。
元々カヴァーが上手い人だったんですよ、初期の頃にカヴァーした、Themの「Gloria」やThe Whoの「My Generation」は、ロック史の中でもオリジナルを凌駕するほどの名演とされている。そんなパティが穏やかなトーンで演奏した12曲は、どれもオリジナルの良さを殺さず、しかも上手くパティの色に染められ、一枚のアルバムとして統一感すら出ている。誰もが知っているクラシックを12曲もこんな風に一枚のアルバムにまとめたのは本当に素晴らしい仕事だと思う。
車内BGMとして聴いたときも、演奏しているのは有名な曲のカヴァーだからして、オリジナルを知っている人が聴いた場合「お、このGimme Shelter、誰が演ってんの?」ってな具合に会話の糸口になる可能性もある訳だ。未だそういう機会はないけれど、ロック好きがチョイスするBGMとしては悪い選択じゃないと思う。
アルバムを通して強く感じられるのは、パティ・スミスの、ロックに対する愛情の様なものだ。それは選曲からもアレンジからも感じられる。象徴的なのは、Nirvanaの「Smells Like Teen Spilit」を演奏している所か。ロック的厄年の27歳で夭折したカートの魂を癒すかの様な静かなアレンジで歌われるこの曲を聴いた時、僕は、僕の中にも未だ流れ続ける中二病的病理も一緒に癒されているかの様な錯覚を覚えた。それが正しかったのかどうかはともかく、生前からカート・コバーンはそういう類のロック・イコンだったのは公然たる事実だったし、'90年代以降に描かれた楽曲でこのアルバムで演奏されているのはこの曲だけなのだ。僕の様な聴き方をしてしまった人も多いのではないだろうか。

 

 

 Black Dub / Black Dub

 

Black Dub

Black Dub

 


最後は割と最近のアルバムを。U2等のプロデュースで知られるダニエル・ラノワが腕っこきのミュージシャンを集めて始めた僕の大好きなプロジェクト。もう好き過ぎてどんな言葉を弄すればいいのか分からないので実際聴いてもらうのが一番いいのだろう。聴いて下さい。

 


Black Dub - I Believe In You
"Black Dub"というプロジェクト名通りのダブ調の一曲。ヴォーカルのトリクシー・ウィートリー、このセッションの時は20代前半な筈だけど、それでこの貫禄はなんなんだ。絶句。鼻ピアスと手首のタトゥーもCool。大体僕はミニのワンピースにブーツというファッションに弱いのだ。ハスキーヴォイスのトリクシー嬢にもうメロメロです。


Black Dub - Surely
先の曲とは打って変わって、サザンソウル調の一曲。ダニエルのギターが素晴らしい。音色、旋律、バンド内での立ち位置、全てが完璧。曲自体は良く聴くとただのR&Bで、少し古臭い曲調なんだが、それを微塵も感じさせないプロデュースにも脱帽。一流のプレイヤーが集まって作り上げた、完璧な仕事。その素晴らしさに言葉もございません。
…考えてみれば、何か「仕事」をやる時には3人か4人位が一番いいように思う。普段のタクシー業務は個人プレーばかりだけど、僕も久しぶりにバンドやりたいなあ、なんて思わせてくれる一曲です。

 

 

iTunesの再生履歴を見ると墨入りタクシーの車内ではこんな感じの音楽が流れている事が多い様です。お客さんとは殆ど音楽の話になんかならないんだけどね。ごくたま~に話を振ってくるお客さんがいらっしゃる位。

生活の中でじっくり音楽を聴く時間って、意外と取れないモンなんで、そういう意味ではありがたい仕事です。墨入りタクシー、今夜も音楽聴きながら営業中です。