墨入りタクシーゆる~く営業中

とある地方都市のタクシードライバーの日々の雑感

タクシードライバーと飯

勤務形態にもよるのだろうが、僕たちタクシードライバーの1日は長い。ウチの会社の場合、正規のシフト上の拘束時間は朝の8時から明けての夜中の0時までだ。しかもそれはあくまでシフト上の拘束時間であって、それだけじゃなかなか稼げないので、朝も7時にはクルマに乗っているし、週末等夜の街が賑わっている日は午前3時頃まで業務している事なんてザラだ。朝飯は家で食べてくるとしても、昼飯晩飯は勤務中に食べなければならない事になる。

昔の古き良き時代、まだ日本の景気が良かった頃は、タクシードライバーが集う定食屋が街のそこここにあった。と言うか、僕の叔父が正にそういう定食屋を経営していたので、幼い頃から昼飯時に集うタクシードライバーを見て育った。そこに昼過ぎに遊びにいくと、店の前にはいつもタクシーが5~6台は停まっていた。時代ものんびりしたもので、ドライバーのおじさん達は昼飯を食べ終わった後もすぐには業務に戻らず、クルマを停めて呑気に世間話に興じていた記憶がある。GPSなんて無かった頃だったし、時代はバブル景気が始まった頃だったかなあ、それでもそこそこ稼げたんだろうね、まあいい時代でした。

その定食屋の奥にはカウンターから仕切られた小上がりがあり、忙しい時間帯などは「ちょっとそっちに行ってなさい」等とカウンターからそちらに追いやられたりした。するとそこには、一服どころか完全に仕事に戻るのを放棄したダメなドライバーが寝転がってエロ本を読んでいたりした。テーブル代わりのポーカーゲーム機の上には食べ終わった定食の膳と、何故か瓶ビール。その頃は今じゃ考えられない程酒気帯び運転に対する世間の認識って甘かったんだけど、それでも幼心に、うわぁ、このおじさん柄悪っ!と思ったのを覚えている。そのドライバーの柄の悪さに嫌悪感を覚えた記憶は不思議となくって、むしろ薄暗い小上がりの、そういう少し淫靡な雰囲気を心地いいと感じる子供だったのかも知れない。その当時はまさか自分がタクシードライバーになるなんて想像もしてなかったけど。

時代は変わって21世紀。バブル景気など遥か昔にはじけ飛び、平成の大不況やらリーマンショックやら、最近だと消費増税?こそっと増税された住民税?まあ明るい経済ニュースは聞く事がなくなって久しい。暇な時間にニュースやらツイッターのTLやら眺めていると、資本主義経済ってそのうち破綻すんじゃねえの?なんて疑念すら湧いたりする。この国だけの問題じゃなくね。まあそれは多少大袈裟だとしても、こういう仕事をしていると所得の格差はどんどん広がっているのを実感したりする。都会は景気いい業種は景気いいらしいけどね、斜陽の田舎町ではナントカミクスの恩恵なんて微塵も感じられませんね。むしろ酷くなってる。

タクシー稼業なんて所詮水商売だから、そういう景気の変動の影響をモロに受ける業種な訳でして、田舎のタクシードライバーは皆青息吐息で暮らしている。前回のエントリでも少し書いたけど、9月分の給与明細を見た時は背筋が寒くなった。自分で言うのはアレだけど、これでも一応月の営業収入はドライバー80余名中TOP10から脱落する事は無い程度には上げているんだけどなあ。具体的な数字は書かないけど、我が家の場合奥様がかなりいい条件で仕事出来ているので何とか人様並みの暮らしは出来ているけど、それでも暮らしは楽じゃない。

そんな昨今だから、僕が幼い頃に叔父の定食屋で見た様な牧歌的な風景は完全に消滅した。金銭的にも、時間的にも、そんなランチを取る余裕はタクシードライバーには無くなったのだ。少しでも稼ぐ気があるドライバーは店に入って食事を取ったりしない。時間がもったいないから。僕の場合は、昼食は朝から午後3時頃まで、待機で注文待ち、付け待ち、流しである程度数字を上げた後に、車庫近くで待機しながら持参した弁当を車内で食べる。3時過ぎに食べるのは、その時間帯は動きが止まる、という事もあり、あまり早い時間に食べると夜に腹が減る、というのもあり。で、夜飯は、平日等0時の定時で上がる時は基本食わない。週末に遅くまで残業する時は流石に食わなきゃもたないから食うけど、それでも店に上がって食べたりはしない。コンビニ弁当やドライブスルーのハンバーガー、ごくたまにやっすい牛丼。これも待機や付け待ちしながら車内で。まあファストフードオンリー。食べ物の匂いがこもるのは嫌なので窓は4枚とも全開。雨の日や冬はなかなかに切ない。

周りを見ても大概僕と似たり寄ったりですね。年金貰ってるおじいさんドライバーなんかは車庫の休憩室で食べたりしてるけど、まあ定食屋でのんびり、なんて人は殆どいない。これも多分金銭的な理由でなんだろな。叔父も随分前に店を畳みました。不景気で話にならねえよ、なんてヤケクソ気味に愚痴こぼしてたのを覚えてます。

年末に源泉徴収を貰う度に思うけど、田舎町のタクシードライバーってここまでやってこの年収なんですよね。怒りを通り越して悲しくなる時がある。あ、今回のエントリは愚痴じゃないですよ、地方都市のタクシードライバーの現状を、問題意識と少しの怒りを込めて綴ったレポートです。せめて昼飯くらい少しのんびり食える状況にならないのかな、という希望を込めた。愚痴言うのは好きじゃない。あ、そう言えば今年一月に施行された「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法等 の一部を改正する法律」ってなんだったんだろう。あまりに現状に変化が無さ過ぎて存在忘れてた。気が向いたら思う事書こうかな。

 

 


SLANG - 糞の吹き溜まり (OFFICIAL VIDEO) - YouTube


少しでも気持ちの中に「怒り」という感情がある時にはハードコアって音楽はとてもいい。VokalのKOさん、僕とタメなんだよなあ。尊敬してる人です。