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墨入りタクシーゆる~く営業中

とある地方都市のタクシードライバーの日々の雑感

夜明けのブルース

特定秘密保護法案の騒ぎに紛れてこっそり?と国会で可決されたタクシー減車法案について思うことを書こうかと、空いた時間にちょこちょことテキスト打っていたんですが(仕事が繁忙期に突入したので未完のまま更新は頓挫)、僕も大好きな新進気鋭のブロガー、luvlifeさんTwitterで紹介して頂いたらアクセス数がどかんと上がったので、ちょっと色気を出して予定を変更して読み物的なエントリを書こうと思います。

某月某日。年末の、ひどく忙しい日のAM4時過ぎ。普段はこんな時間まで営業してないんだけど、年末くらいは頑張らなきゃならない。あと一本走ったら流石に帰るかな、と思っていると、繁華街の雑居ビルの前で僕と同じ位の年の頃のお兄さんが手を挙げた。深深と雪の降る中、ハザードを焚いてドアを開けると、乗車するのは連れのスナック勤務と思しき妙齢の女性。時間からしてアフター帰りか。明らかにアルコールをオーバードーズしていらっしゃる様子(要は飲み過ぎてる)。心配顔の、人の良さそうなお兄さんに見送られながら千鳥足でご乗車してきた。


ドアを閉めるなり、お姉さんは何もそこまで、という大声で行き先を告げてきた。「◯◯通りに託児所あるでしょ、そこまでやって!」と、ものすごいテンション。いやそんな大声出さなくても聞こえるから。しかしこの時間に子供迎えに行くのかよ、やっぱり夜更けは客層がディープだなあとか思いながら走り出した。


そもそもこんな時間に託児所に子供を迎えに行くお客さんは初めてで、僕も場所がうろ覚えだったので、ちょっと男好きする感じの中々美人なお姉さんの、超ハイテンションな道案内で目的地に向かう。


「そこの左側!すぐ戻って来るからちょっと待っててね」。託児所の前に着くと、お姉さんはそう言い残して雪の上をハイヒールを履いた千鳥足で建物の中に入って行った。僕は、つーかお姉さん、そんなんで子供連れて来れんのかい?と、半分心配、半分あきれながら彼女の後ろ姿を見送った。


が、3分位経って戻ってきた彼女の姿を見て僕は驚愕した。さっきまで男好きする感じの「女」だった彼女の表情は、すっかり一人の母親の顔つきになっている。まだ2歳にならないくらいの子供を抱いて歩く足取りもしっかりしている。女ってこんなにスパッとスイッチを入れ替えられる生き物なのだろうか。軽く言葉を失いながらドアを開け、彼女の家に向けクルマをスタートさせた。


年末の喧騒も何処へやら、明け方の街は流石にクルマもまばらになってきた。細かな雪が降り続ける道を静かに走る。お姉さんは、さっきまでのハイテンションは影もなく、ぐっすり眠っていたところを起こされて眠そうな子供に小さな声で話し掛け、二言三言ネガティブな独り言を呟く。 こういう状況で余計な詮索はしたくもないが、恐らく母子家庭なのだろう。斜陽の地方都市なんてネオンと喧騒に彩られた師走の街から5分も走ればこの静けさだ。身に沁みる寂しさは都会の比ではないだろう。都会や夜の街の賑やかさがあれば寂しさとは無縁だなんて思わないが、その真っ只中にいればその間は少なくともそれを感じずには済む。


何かくだらない与太話でも披露すれば良かったのだろうか。彼女の気晴らし位にはなったかも知れない。でも話すべきことは全く思いつかなかった。気が利かない無口なドライバーは黙ってクルマを走らせた。


程なくして彼女の家の前に着いた。僕は、ありがとうございます、〇〇円になります、と料金を告げた。彼女はたっぷり時間をかけて僕にじらす様に小銭を一枚づつ渡し、「ちょっと待っててね、家のカギ探すから」と、さらに時間をかけてハンドバッグの中を探った。それが、クルマを降りた瞬間に向き合わなければならない現実に対する躊躇なんだな、と気付いたけれど、まあ僕にはどうする事も出来ないわな。仕方ないからいつもの様に、ありがとうございました、に念を込めた。人生色々あるよね、まあお互いぼちぼちやろうよ、それと余計なお世話だけど、飲み過ぎには気を付けなよ。



念を送るたびに思うんだけど、結構相手に伝わっている気がする。視線とか声のトーンとか、会釈の角度とかで。伝わっているといいなっていつも思う。