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とある地方都市のタクシードライバーの日々の雑感

タクシーあるある

今までは全然読んだ事がなかったんだけど、自分でタクシードライバーについての文章を書き始めてから、同業者の方のブログをたまに眺める様になった。結構あるんですよ、数もあるし、内容も様々。その日の仕事の出来具合を備忘録の様に記したものとか、社会派、というか、業界の問題やあり方などを中心に書いているものとか、はてなで書かれている大江戸タクシーさんなんかはスポーツ選手が自己研鑽するように仕事にも文章にも真面目に取り組んでいらっしゃる。 その地区による仕事の進め方の違いとか、稼げる金額の違い、または、あーそれ、あるわーって同業者なら誰でも納得してしまうだろうタクシーあるあるネタとか、読んでいてなるほどなーって思うことが多く、結構楽しみながら読んでいる。

その中で、どのブログかは失念してしまったんだけど、あるブログ主さんが「お客に『運転手さん、商売調子どう?』って聞かれた時に『ぼちぼち調子いいですよ』って答えるとお客は大概機嫌を悪くしやがる」って書かれていて。読んでいて爆笑してしまった。

これ、タクシーあるある。

このブログ主さんは、どうせオレらタクシー運転手なんて見下されてんだよ、なんて少しひねた調子で書かれていて。僕はそこまでは悪くは取らないけど、これはあるわー。思い出しても可笑しくなってくる。

僕の車両に関して言えば、きっと単純に面白くないんだと思う。この『調子、どう?』って質問自体、結構な頻度で聞かれる事なんだけど、髪の長い、チャラい感じの、年齢不詳の半分自由人風情の運転手ごときが、車内で訳わかんない音楽流しながらバリバリ景気良く稼いでいたら、そりゃ様々なしがらみに縛られた、真面目に仕事していらっしゃる勤め人の方々は面白くないに決まってる。だから僕は、結構な頻度で聞かれるこの問いには、いやーダメっすよ、全然、って答える様にしている。まあ実際地方都市のタクシー運転手の給料は良くないしね(そんなに悪くもないが)。ネクタイなんて締めてるけど、仕事の内容は純然たる肉体労働だし。ウチの会社は社風が自由だし、人間関係のしがらみが全く無い仕事だからその辺は自由にやらせてもらってて、きっとそれが僕の風体にも表れているんだろうけど。

でもきっと、あるんだろうね。このブログ主さんが書いている様な風潮。僕は予め予防線張っているから嫌な思いをする事も少ないんだけど、一度世話好きそうなおばさんのお客さんが、あらぁ〜運転手さん、そんなにお若くてタクシー運転手なんてなさってて…お仕事辛くない?大変でしょう?ご家族はいらっしゃるの?ってな具合に猛烈な勢いで要らぬ気遣いをされて辟易してしまった事があった。まあそういう事なんだろうね、残念ながら。その時は、申し訳ないけど、ちょっと余計なお世話かも、って思った。おばさんには悪いけど、僕はこの仕事、結構気に入っているんだよね。

タクシー運転手達も皆この空気を感じている気配もある。プライベートで飲みに出掛けた時はやはり僕もタクシーを使って帰宅するんだけど、そんな時は一般人を装って、運転手さん、景気どうっすか?なんて聞いたりする。すると殆どの運転手さん達は「ぼちぼちですよ〜」って答える。それが暇な時期だったとしてもだ。その時期の夜が食えない事くらい、同じドライバーの僕自身よく分かっているから、そういう答えを聞いた時は少し複雑な気持ちになる。

聞いてもいないのに去年の年収の話を始める運転手さんもいた。現役のドライバーの僕にはこの会社の夜勤だとこの位だろうな…というのも当然想像付く訳で、その時は若干水増しされて伝えられた年収の額面の数字を受け流しつつ、後部座席で腕組みをしたものだった。

なんなんだろう?そんなにタクシー運転手というのは日陰な職業なんだろうか?同じタクシードライバーとして上に書いた様な見栄?を同業者に張られると少し悲しい気持ちになる。まあ確かに夢を持ってこの業界に入って来る若者は現状では少ないかも知れない(いないとは言わない)。仕事はハードだし(その分頭も気も使わないけど)、給料も決して良くはない。仕事の内容的にもそんな大仰な仕事では決してないとも思う。正直今までしてきた仕事の中で一番気楽だしね。肉体的には一番ハードだけど。

かと言って人に蔑まれる仕事じゃないと思うんだけどなあ。凄く単純に、簡単に考えてそういう答えしか僕の頭からは出てこない。世の中には絶対必要な仕事だしね。昔は柄悪い運転手さんも多かったらしいけど、最近のドライバー達はみんな真面目に稼いでんじゃん?多少飲み過ぎてろれつが回らなくなっても、営業接待で美味しくないお酒飲んだ帰り道にちょっと八つ当たりしても、なだめてあやして、ちゃんと家まで送り届けてるでしょう?大雨だろうが大雪だろうが、物理的に通る事が可能な道路ならどんな状況だって目的地まで運んでるでしょう?

ドライバーももっと身の丈を意識しつつ胸張ればいいのに、とも思う。どやっとした態度で偉そうに出来る大層な仕事ではないけれど、そんなに卑屈になる必要はないでしょうに。その辺、ドライバーとお客さん両方に意識の改革は必要な気はしますね。みんながもっと幸せになる為に。

タクシー適正化法案も無事施行され、そんなに過度の期待はしていないけど我々タクシー運転手の待遇も多少マシになりそうな気配もある最近だ。でも、そりゃお金も大事だけど、タクシー運転手に今一番必要なのは「プライド」なのかも知れない。最近そんな事を考えながら仕事してます。ゆる〜く。