墨入りタクシーゆる~く営業中

とある地方都市のタクシードライバーの日々の雑感

墨入り、生きのびてます。

久しぶりの更新です。

別に特別な事があった訳でもなく、毎日いつも通りに仕事してたんだけど、何故かこのblogに向かうモチベーションが上がらず、気付けば1年以上放置してしまいました。仕切り直してまた再びゆる〜く書いていこうかなあと思っています。
 
 
放置していた間特に変わった事があった訳ではなく、日々淡々と仕事をこなしていました。変わった事と言ったら、会社から預けられているクルマがプリウスからコンフォートに戻ったって事位かな、それ以外は特に事故も苦情も無く本当に唯々淡々と業務に当たる日々でした。
 
 
書きたい事は色々あったんだよね、年末年始の超繁忙期も無事に乗り切ったので(年末らしい風変わりなお客さんも多くてなかなか楽しい年末でした)、ぼちぼち復活です。
 
 
この仕事も気付けば始めてもう5年半、新米とも言えない立場になってきました。まあ特にそれによって新たな責任を負ったりする訳では全然ないんだけど、この業界や仕事に関しては色んなものは以前にも増して見えて来たかな。そういう意味ではホント書きたい事はたくさんあります。そんな事を、少しづつ書いていこうと思います。
 
 
という訳で本日は復帰のご挨拶まで。
 
 
 
 
 
 
せいぜい生きのびてくれ。ハルは相変わらず最高だ。

タクシードライバーと飯

勤務形態にもよるのだろうが、僕たちタクシードライバーの1日は長い。ウチの会社の場合、正規のシフト上の拘束時間は朝の8時から明けての夜中の0時までだ。しかもそれはあくまでシフト上の拘束時間であって、それだけじゃなかなか稼げないので、朝も7時にはクルマに乗っているし、週末等夜の街が賑わっている日は午前3時頃まで業務している事なんてザラだ。朝飯は家で食べてくるとしても、昼飯晩飯は勤務中に食べなければならない事になる。

昔の古き良き時代、まだ日本の景気が良かった頃は、タクシードライバーが集う定食屋が街のそこここにあった。と言うか、僕の叔父が正にそういう定食屋を経営していたので、幼い頃から昼飯時に集うタクシードライバーを見て育った。そこに昼過ぎに遊びにいくと、店の前にはいつもタクシーが5~6台は停まっていた。時代ものんびりしたもので、ドライバーのおじさん達は昼飯を食べ終わった後もすぐには業務に戻らず、クルマを停めて呑気に世間話に興じていた記憶がある。GPSなんて無かった頃だったし、時代はバブル景気が始まった頃だったかなあ、それでもそこそこ稼げたんだろうね、まあいい時代でした。

その定食屋の奥にはカウンターから仕切られた小上がりがあり、忙しい時間帯などは「ちょっとそっちに行ってなさい」等とカウンターからそちらに追いやられたりした。するとそこには、一服どころか完全に仕事に戻るのを放棄したダメなドライバーが寝転がってエロ本を読んでいたりした。テーブル代わりのポーカーゲーム機の上には食べ終わった定食の膳と、何故か瓶ビール。その頃は今じゃ考えられない程酒気帯び運転に対する世間の認識って甘かったんだけど、それでも幼心に、うわぁ、このおじさん柄悪っ!と思ったのを覚えている。そのドライバーの柄の悪さに嫌悪感を覚えた記憶は不思議となくって、むしろ薄暗い小上がりの、そういう少し淫靡な雰囲気を心地いいと感じる子供だったのかも知れない。その当時はまさか自分がタクシードライバーになるなんて想像もしてなかったけど。

時代は変わって21世紀。バブル景気など遥か昔にはじけ飛び、平成の大不況やらリーマンショックやら、最近だと消費増税?こそっと増税された住民税?まあ明るい経済ニュースは聞く事がなくなって久しい。暇な時間にニュースやらツイッターのTLやら眺めていると、資本主義経済ってそのうち破綻すんじゃねえの?なんて疑念すら湧いたりする。この国だけの問題じゃなくね。まあそれは多少大袈裟だとしても、こういう仕事をしていると所得の格差はどんどん広がっているのを実感したりする。都会は景気いい業種は景気いいらしいけどね、斜陽の田舎町ではナントカミクスの恩恵なんて微塵も感じられませんね。むしろ酷くなってる。

タクシー稼業なんて所詮水商売だから、そういう景気の変動の影響をモロに受ける業種な訳でして、田舎のタクシードライバーは皆青息吐息で暮らしている。前回のエントリでも少し書いたけど、9月分の給与明細を見た時は背筋が寒くなった。自分で言うのはアレだけど、これでも一応月の営業収入はドライバー80余名中TOP10から脱落する事は無い程度には上げているんだけどなあ。具体的な数字は書かないけど、我が家の場合奥様がかなりいい条件で仕事出来ているので何とか人様並みの暮らしは出来ているけど、それでも暮らしは楽じゃない。

そんな昨今だから、僕が幼い頃に叔父の定食屋で見た様な牧歌的な風景は完全に消滅した。金銭的にも、時間的にも、そんなランチを取る余裕はタクシードライバーには無くなったのだ。少しでも稼ぐ気があるドライバーは店に入って食事を取ったりしない。時間がもったいないから。僕の場合は、昼食は朝から午後3時頃まで、待機で注文待ち、付け待ち、流しである程度数字を上げた後に、車庫近くで待機しながら持参した弁当を車内で食べる。3時過ぎに食べるのは、その時間帯は動きが止まる、という事もあり、あまり早い時間に食べると夜に腹が減る、というのもあり。で、夜飯は、平日等0時の定時で上がる時は基本食わない。週末に遅くまで残業する時は流石に食わなきゃもたないから食うけど、それでも店に上がって食べたりはしない。コンビニ弁当やドライブスルーのハンバーガー、ごくたまにやっすい牛丼。これも待機や付け待ちしながら車内で。まあファストフードオンリー。食べ物の匂いがこもるのは嫌なので窓は4枚とも全開。雨の日や冬はなかなかに切ない。

周りを見ても大概僕と似たり寄ったりですね。年金貰ってるおじいさんドライバーなんかは車庫の休憩室で食べたりしてるけど、まあ定食屋でのんびり、なんて人は殆どいない。これも多分金銭的な理由でなんだろな。叔父も随分前に店を畳みました。不景気で話にならねえよ、なんてヤケクソ気味に愚痴こぼしてたのを覚えてます。

年末に源泉徴収を貰う度に思うけど、田舎町のタクシードライバーってここまでやってこの年収なんですよね。怒りを通り越して悲しくなる時がある。あ、今回のエントリは愚痴じゃないですよ、地方都市のタクシードライバーの現状を、問題意識と少しの怒りを込めて綴ったレポートです。せめて昼飯くらい少しのんびり食える状況にならないのかな、という希望を込めた。愚痴言うのは好きじゃない。あ、そう言えば今年一月に施行された「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法等 の一部を改正する法律」ってなんだったんだろう。あまりに現状に変化が無さ過ぎて存在忘れてた。気が向いたら思う事書こうかな。

 

 


SLANG - 糞の吹き溜まり (OFFICIAL VIDEO) - YouTube


少しでも気持ちの中に「怒り」という感情がある時にはハードコアって音楽はとてもいい。VokalのKOさん、僕とタメなんだよなあ。尊敬してる人です。

草臥れて

時が過ぎるのは何だかとても早くって、気付いたらもう9月です。飲食とか衣料品業界では良く「ニッパチ」、要は2月8月が暇な時期だ、なんて言ったりしますが、タクシー業界的には「ロック」、6月9月が最も仕事が無い時期だったりします。気候的にも暑くも寒くもなく、特にイベントも無い月ですしね、用事があってもちょっとの距離ならみんな歩くんですかね、何でかわかんないけどとにかく暇なんです。僕らは月締めの営業収入を元にしてその月のお給料を頂いているんだけど、まあ空梅雨だった今年の6月の給料は悲しいものがありました。思い出したくないので給与明細は物理的な、記憶は心理的なシュレッダーにかけて忘れる事にしました。しかしタクシードライバーの月給の安定しない事と言ったら、年一番の繁忙期の12月と比べて倍近く違うからね、一家の家計を預けている奥様の苦労も偲ばれるというモノです。

そんな暇な時期の空気にすっかり呑まれてしまった墨入りは、自堕落な日々を送っておりました。非番の日は基本ごろごろ何もしない、仕事中も空き時間に文章を打つなんてもってのほか、心がけていた読書もする努力を放棄し、ひたすらスマホでゲームしてました。マンボウを育てる育成ゲーム。このゲーム、ただただマンボウを愛でて育てていくだけ、という、やってて特に何のカタルシスも得られないクソゲーなんだけど、怠惰な一日をやり過ごすにはうってつけで、毎日やり込みました。ひたすらiPhoneの画面をフリックする事数ヶ月、ランキングはソシャゲー廃人に混じって全国ベスト50入り。いや廃人に混じってとか言うか僕も立派な廃人ですな。それなりに忙しい7月8月は(ゲームしながら)まあまあ頑張って働いたけど、そんな時期も過ぎ去り季節はまた9月の暇な時期に突入。ますますマンボウゲームも捗っていたんだけど、そろそろ少しアタマ使ってやらないと本当の廃人になるなという軽い恐怖を覚え、久しぶりにキーボードを叩いております。

…暇な時期のこの稼業の、自分がゆっくりと腐っていく様な感覚は経験した人にしか分からないと思う。人生なんて大袈裟なモンじゃないとは思うけど、待機中や付け待ち中に狭い車内で一人で過ごしていると、一分一分正確にbpm60の速さで過ぎていく時間と共に自分の人生が無駄にすり減っていくのを皮膚感覚で実感出来る。忙しい時期はまだそれなりに充実感的なものもあるんだが、暇な時期はホント駄目。これはなかなかの恐怖体験である。他人との関係性で揉まれて人間的に成長する訳でもなし、アタマを使って工夫して何かを作り上げる訳でもなし、ただただルーティンに、乗せたお客さんに行き先を聞き、3秒でその場所を思い浮かべ、そこまでのルートを頭の中で構築し(この瞬間だけは小さなカタルシス得られるけど)、走り出す。目的地に着き、料金を頂く。そんなルーティンワークが一時間に一本。こんなん十分に腐れるでしょ、っていうかここしばらくそんな感じで腐ってた。若い人材が入ってこない業界、なんて言われてるけど、20代の若者に「自分、タクシーに乗ろうと思うんですが」って相談されたら僕は全力でとめる。この仕事、若いうちからやるモンじゃない。人生色々こじらせてちょっとくたびれた40過ぎにこそふさわしい仕事だと思うから。人生の楽しい事や辛い事経験してない、本気で笑ったり苦しんだり悩んだりしてない真っ白い画用紙がタクシーなんて運転したら速攻色褪せるよ、無地のままね。そんなん見るに偲びないでしょ。あ、都会は知らんよ、僕の話はあくまで地方都市での話ね。

そんな墨入りは最近、仕事が終わった後、芋焼酎飲みながらこの曲を聴くのを日課にしておりました。


theピーズ ノロマが走っていく - YouTube



くたびれたタクシー運転手がピーズ好きとか、あまりにベタ過ぎて言いたくないんだけど、僕の最愛のバンドです。サウンドもいいけど何より詞がいい。大好きなんだけど仕事中はこのテの音は聴けないからね、家で酒飲みながら聴いてました。

戻らない人生も 半分はとっくだな
マチガイも温めよう 今更リセットもないさ
死ぬまで泳いでいく クタびれたかい そうかい
溺れるまでサボるかい 誰も手貸し切れないさ

外道にもなれた 卑怯にでも
で、どうにか生きた ショイ込んで続くんだ 続くんだ

帰らなきゃなんないか 足りないのは時間だけ
ノロマが走って行く しあわせなんてそんなもんだ

遠くまで起きていよう 終いまで見届けよう
イキついたツラで逢おう 待ち合わせなんて要らねえんだ

急ぐコトないさ 独りだろ
寝小便垂れて 温もりを見ろ 夢見ろ

ノロマでGO GO ノロマでGO GO
ヨダレ垂らして 乾かしキってGO

外道にもなれた 卑怯にでも
で、どうにか生きた ショイ込んで続くんだ
泣けんならいいさ 血吐くまで
どうにかなるさ それまで生きろ 生きのびろ

しあわせなんてそんなもんだ、どうにかなるさ、それまで生きのびろ。そんなモンかもね。っていうか、幸せだろうがなんだろうが、時間がきたら自動的に日付が変わって朝が来るんだよね。まず寝るか。そんな具合にものっ凄い低レベルで小さく前向きになりながらやり過ごす日々でした。

でも確かに、幸せなんてそんなもんかもしれないな。